システムの責任

先日行なわれた、大野病院の裁判がかなり注目を集めていました。
私が雰囲気をウォッチした限り、ごくわずかの方を除き、ほぼすべての方が
被告の医師の方の無罪を喜ぶという状況だったようです。
私は医師でも妊婦でもありませんし、この裁判に以前から注目していたわけでもないので、
まとめたサイトの情報(こことかこことかこことかこことか)などを読ませて頂きました。


一通り読んだ感想としては、心情的には無罪であってもおかしくはないかなと思いますが、無罪判決が出たからといって解決された気分にはなれないところです。


確かにこの判決を受けて医師の裁量範囲が認められたことで、より安心して治療に専念できる面があるのは確かですが、ミスと避けられない事故の差が明確でない以上、再び同じようなことが起こりうるでしょう。


私が感じた違和感の一つは、このような事故を個人の責任とすることが優先される状況です。事故の最前線にいるのは担当者ですが、担当者は多少のばらつきはあろうとも普通の人間であり、間違いを必ず起こすというのは自明です。その担当者が間違えたら責任を取るということは、扱う対象の「価値」が極めて高い医療分野は超ハイリスク職業であるということになります。当然、多少医師の所得が高いといってもリスクに見合うものではなく、産科崩壊ともいわれる状況になったわけですが。
このような事故で、本当にやるべきことは「同じような事故が2度と起こらないこと」であって、起こした人間の責任追求は二の次かもしくは不要ではないかと思います。大野病院の事故の場合は、ミスであるのかそもそも病気であるのかという線引きが困難な領域ですが、いずれにせよ何か問題がなかったかというのは、遺族の訴えがあった時点で調査する必要が生じるでしょう。
この辺の議論はWikipediaの「業務上過失致死傷罪」あたりに詳しいです。


いくつか報道や資料を見た中での私見としては、日本においては事故は個人が起こすと思われており、システムが起こすものだという認識が薄いような気がします。
医療に限らず、科学技術が進歩して担当者ごとの細かい分業が進み、強力な機械が自動判断を繰り返す現代の現場(例えばこんな本とか)においては、人にすべての責任を負わせるのではなく、システムをいかに構築してフェイルセーフを保証し、ミスを防ぐかが重要になっていると思います。
私が思いつく範囲では、このような事故に際し、本当にやるべきこととしては、

  • 事故が属するシステムに不備が無かったかを第三者が調査し、
  • 原因を公表して、対策を一般化した後、
  • システムに明らかな不備があればシステムの責任者(組織のトップ)の責任を追及する
  • もしくは、明らかな悪意があるならその人間の責任を追及する

という流れになるべきではないでしょうか。
その点で、このような三者機関の設置というのは望ましい方向ではないかと思います。
ただ、その第三者機関がどこまでシステムの問題を追及してくれるのかはいくつかの記事を見る限りはよくわかりませんでした。
システムの改善は現場の努力に負うところが多いのは確かですが、システムを構築する責任を持つトップの危機感と意志がなければシステム全体の強度を上げることは困難ではないかと思います。
方法論としてはこちらで述べられているような方法はあるでしょう。ただ医療関係者でない身としては、悲壮感が出ない程度に実施して頂いた方が、病院に行って申し訳ない気分にならなくてすむかな、と思ってしまうのですが……


ちなみにトップに責任を取らせる法律はずいぶん効きがいいようです。暴対法31条でしょうか?